大阪地方裁判所 昭和49年(ワ)1116号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【説明】
本件事案は、次の通りである。被告Y1Y2は、被告Y3に請負わせて、本件第二建物を取壊してその跡に本件第三建物を新築させたところ、右工事により、原告X所有の本件第一建物が損傷を受け、その修理に取りかかつたが、過分の費用を要することになつたので、Xは、やむなく第一建物を取壊して、本件第四の建物を新築した。そのために、Xは、(一) 第一建物復旧工事費用三三一万九〇〇〇円、(二) 同店内改装工事費用金二二〇万七五〇〇円、(三) 逸失休業損四一〇万三〇三五円、(四) 売上減少損一〇〇万円、(五) 改築休業に伴う商品安売処分損三〇五万六九六五円、(六) 慰藉料一〇〇万円、以上合計一四六八万六五〇〇円の賠償を求めた。
【判旨】
五 原告の損害について
1 原告は本件工事に伴う損害として、(一)第一建物の復旧に要する費用、(二)同屋内改装に要する費用、(三)改築工事中の逸失休業損、(四)昭和四八年九月より改築着手までの売上減少損、(五)改築休業に伴う商品安売処分損、(六)慰藉料を計上している。
しかし、前認定(二の(六)ないし(八))によれば、第一建物はそもそも建て替えの時期が到来していたのであつて、原告においても初めは被告勉との共同で建て替える計画の下に両者で話し合いが持たれ、見積、設計に着手する段階までに進んだとき、たまたまその話し合いが成立しなかつたため被告勉が独自で本件工事をなし、その影響により第一建物の東側基礎が沈下(その沈下自体も第一建物自体の老朽化と前認定の両側壁柱に無理な負荷がかかつていたことが影響したことも見逃せない)して建物の傾斜が目立つようになつたので、原告はその修復に過大の費用を掛けることを避け、かねての目論見どおり建て替えをしたと認められるから、原告が本件工事によつて受けた影響は、具体的には、近い将来に実施を目論んでいた第一建物の建て替えの時期を、その意としないのに早められてこの時期に行なうことを余儀なくされたことに止るものとみなければならない。
2 そうだとすると、原告主張の(一)(二)の費用は、現実に発生したものではないのであるから、これを原告の被つた具体的損害に計上するわけにはいかない。(三)及び(五)は建て替えについても当然必要とする費用であるから、その全部を右建て替えの時期を早められたことによる損害に計上することはできない。また、<証拠>によれば昭和四八年九月以降休業までの間に売上の減少したことは認め得るが、それが第一建物が前認定の損傷を受けたことのみによるものかどうかは必ずしも確認できない。
3 よつて原告の損害は、(1)<証拠>によつて認め得る前記原告主張の(三)の四一〇万三〇三五円及び(五)の一八〇万七八〇六円(これを三〇五万六九六五円とする資料は見出せない)のそれぞれのうち、前記のように建て替え時期を早められたことにより生じた部分と、(2)慰藉料とを計上し得るけれども、右(1)は極めて算定が困難であつて算定不能に等しいから、(1)(2)を併せ、本件工事により原告が第一建物の建て替え時期を早めざるを得なくなつたことによつて被つた諸般の影響を包括して精神的苦痛に置き換えたうえ慰藉料として算定するのが相当である(このように算定が極めて困難若しくは不能の財産上の損害を、その請求額の範囲内において慰藉料に置き換えてこれを慰藉料請求額に上乗せし、総額において請求額の範囲内での損害賠償額を認定することは、実体上も可能であり且つ民訴法一八六条にも反しないと考える)。
4 上記の見地に立つて本件紛争の全経過に徴して勘案すれば、右原告の被つた精神的苦痛を慰藉するには金一八〇万円を相当と考える。被告らにこれを超える額の賠償を命ずるときは、結局原告がそもそも自己の計算において出捐すべきことが予定されていた建替えの費用を、本件工事の瑕疵が右建替えの機縁となつたことを奇貨にその肩替りをさせるに等しく相当でない。
(潮久郎 久保内卓亞 矢延正平)